「油絵ですか?」「アクリルですか?」私の絵を見た人によく聞かれる質問だ。答えはどちらでもない。大まかに言うとアクリルの上から油絵の具少しとアキーラで描いている。そのほかに布などもコラージュするので、いわゆる「ミクストメディア」である。
私は小さい頃から理科が好きだった。私の父と弟は2人とも理科系の大学を出て仕事についた。私は中学校では理科が得意、高校でも生物や化学は授業を聞いているだけでほとんど満点が取れた。ただし、科学は有機化学になるとさっぱり分からなくなったが。なので、高校3年生の時は理科系大学受験のクラスにいた。その方が、芸大を受験するにはデッサンの勉強をする時間がとれると思ったからだ。しかし、愛知芸大は見事に1次試験で落ちた。運良く愛知教育大学の美術科に入学できた。
大学に入って、夏休みの集中講義で修復家の歌田眞介先生、当時東京芸大の先生だった坂本一道先生から絵画組成の集中講義を受けた。歌田眞介先生からは生キャンからのキャンバスの作り方と、正しい絵画組成の方法、坂本一道先生からは混合技法の制作手順を教わった。
教育大学だったが「教員になれば嫌でも毎日授業のことは考える」と、私はあまり授業のやりかたなどの研究はせずに絵画組成の研究と作画に明け暮れた。元々技法書はたくさん読んではいた。理科系の頭なのですんなりと頭にも入ったのだと思う。卒業論文は「カマイユ」とした。「カマイユ」とは、「グリザイユ」を含む、単色画のことを指す。「カマイユ」は一般的に褐色の単色でトーンをつくり、その上から固有色を置く絵を指す。しかし、本来は何色でも単色画なら「カマイユ」と呼ぶのだが、褐色が多かったために現在の定義となった。装飾品の「カメオ」は「カマイユ」と関係がある。「グリザイユ」は白黒の単色画のことである。
ここで重要なのは、絵を描くときの「分業」である。つまり、単色でフォルムとマチエールとトーンだけを先に作るのだ。その上から固有色を置いてその時に「色」とそのハーモニーやバルル考える。大切なのは技法の手順や絵の具の使い方を覚えるのではなく、「分業」するという考え方だ。絵を描くときに「形」「トーン」「マチエール」「カラー」「ハーモニー」「バルル」などたくさんの要素を一気に考えながら描いていくことはとても難しい。そのための分業なのだ。
大学院に残り、結構広めの部屋をほぼ1人で使えるようになった。とても助かった。夕方から朝方まで毎日制作三昧だった。夏の集中講義は大学の先生の代わりに2年間授業のお世話をして、昼食や夕食もお二人の先生とともにした。その中で様々なことを学ばせていただいたとともに、修士論文の「混合技法」についてもレクチャーをしていただいた。 混合技法とは、簡単に言えばテンペラでトーンを作って、油彩で透明に色を置く方法だ。というようりも、元々テンペラで描かれていた洋画だったが、初期はニスとして使われていた油性の塗料の量が徐々に増えていって混合技法となったと考えた方が分かりやすい。さらに、作り置きができないテンペラ絵の具が省かれて、油彩画へと進んでいったものと思われる。
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